薄皮一枚

記事の薄さに定評があります

【インシテミル】関水の正体と目的に関する考察

 

警告

この記事は、小説「インシテミル」のネタバレが含まれます

それでも良いという方のみ、この先にお進みください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

などと、プロローグのオマージュをしつつ


米澤穂信著「インシテミル」に登場する謎多き人物、関水美夜

 


大迫・箱島殺しの犯人であり、事情により10億円を稼ぐ必要があったとクライマックスで判明します


しかし、その理由や、関水の正体は話の最後まで不明なままでした


まぁ、10億円は殺人の動機のための設定であり、その理由は本筋に関係ないので考えるだけ野暮だと言われればそれまでなんですが


それで終わらせてしまうのはあまりにもなので、陰謀論ばりにこじつけて考察してみました。二次創作だと思って気軽に読んで頂けたらと思います

 

まず、作内で書かれた関水の特徴をいくつか抜き出してみます

 

・結城に少年と見間違えられる


・栗色に染めた髪


・大学生くらいの年齢


・渕さんには比較的気を許している


・茶碗蒸しから銀杏を取り除く


・若菜の肘が目に当たり、もんどり打って倒れる。その後も、片目を押さえてしゃがんでいた


・「太陽の光の下で見ると、関水の肌は荒れに荒れ、目も赤く血走っている」


・なぜか右目にだけ涙が溜まっていく


・「あたしが、ここで十億円稼がないと……。みんな、死んじゃう。何人も、何人も……」


・「全てが終わった後、関水は、何も告げずに家を出た。一振りのナイフを手に」


……

銀杏のシーンは関係あるのかなぁ


この中で鍵となるのは、終盤の大詰めで謎解きに関係ないのになぜかねじ込まれた「右目にだけ涙が溜まっていく」という文章でしょう

若菜に肘打ちされて角膜が傷ついたのかなと思いましたが、だとしてもそれをわざわざ書く理由がありませんよね。この文章に関水の秘密が隠されていると考えられます


これらを踏まえて、関水の正体について2つの説を考えました

 

 

①関水の左目は義眼

正体は臓器売買組織から脱出した被害者説

 

根拠


・若葉の肘が目に当たる→左目が見えていなくて避けられなかった(※文章中にどちらの目に当たったか記述はない)


・片目を押さえてしゃがんでいた→義眼が壊れるかズレたため


・きっかり10億円欲しい→組織を潰すための殺し屋を雇う資金

 

関水は臓器売買を行う組織に拉致され、左目を奪われた。「みんな死んじゃう。何人も何人も」とあるのは、関水と同じく拉致された子供たちや、これから拉致される子供たちのことでしょう


殺される前に関水は運良く脱出しました。協力者の存在は間違いないでしょう。関水は自分が死んでまで金を手に入れようとしました。遺志を継ぐ人物は確実に存在したと考えられます


組織の壊滅を誓う関水は、殺し屋を雇うために金が必要だった。その依頼料が10億円だったのでしょう


エピローグで関水はナイフを持って家を出ます。家を出たのは殺し屋に会いに行くためで、ナイフは治安が悪い地域に赴く護身用として持っていったと考えられます


しかし、関水義眼説には次のような反論が挙げられます


「太陽の光の下で見ると……(中略)……目も赤く血走っている」

とありますが、義眼が血走ることはありません。片目だけ血走る、とかそんなふうに書かれるはずです。薄暗い暗鬼館ならともかく、太陽の下で見たのに見逃すというのも苦しいです

 

また、片目にだけ涙が溜まっていく、とありますが、眼球を摘出しても涙腺は残るので涙は出るはずです。でもここはちょっと分からないです。目と義眼で涙の溜まり方に差があるのかも知れません。義眼の知り合いがいないので詳しくは分かりません


ここで、今一度「片目だけに涙が溜まっていく」に立ち戻ってみましょう


片目だけ涙が出る原因を調べてみると、逆さまつげやストレスなど色々ありましたが、いずれも「それ今言う?」ってものばかりでした


さらに調べてみると、涙が出やすくなる涙道閉塞という病気がある薬の副作用で発症するとの報告を見つけました


抗がん剤です

 

ここで、次の説を提唱します

 

②関水元がん患者説

 

涙道閉塞は片目だけにも起こるそうです。関水の右目は抗がん剤の副作用で涙が出やすくなっていたと考えられます


そして、この説は本文中のある記述により大きく補強されます


聡明なる読者諸君はお気付きでしょうが、関水は結城に男と見間違えられています。これは、単に目つきの問題ではなく髪型のせいだったのでしょう


箱島のことは男か女か分からないと評していた結城が、関水のことは初めから男と決めてかかっていたことからも、かなりの短髪だったと推測できます。栗色に染めていたのは地肌が目立たないようにするためでしょうか


渕さんに心を許していたのも、面倒を見てくれた看護師さんと雰囲気が似ていたから無意識に警戒を解いたためという想像もできます


10億円の用途については、こんなところでしょうか


がんで入院した関水は、ある病気で入院している女の子と出会います

 

「大丈夫、きっと治るよ」


「ううん……うち貧乏だから、手術代払えないんだ」


そして、ある日を境にその子と会うことは二度とありませんでした


何年も入院した関水は、似た境遇の子供たちに何人も出会い、気付きました


関水が入院していた病院は、裏では治療費が払えない患者の安楽死を請け負っていたのです


日本では安楽死は違法なので表に出ることはありません。が、患者がこれ以上苦しまないように、ドクター・キリコみたいな担当医が殺していたのです。ニコチン注射でもして


治療を終えて退院した関水の頭に浮かぶのは、親が治療費を払えずに死を待つ子供たち。金さえあれば死なずに済む。金がほしい


関水はそんな子たちに寄付するために10億円を欲した。「みんな死んじゃう。何人も何人も」とあるので、今入院している患者だけでなく、これから入院する患者のことも考えての金額だったのでしょう


エピローグの「全てが終わった後、関水は、何も告げずに家を出た。一振りのナイフを手に」とあるのは、振り込まれた金を寄付し終えたということでしょう


ナイフを持っていったのは、キリコを脅して真実を吐かせるためでしょうか。その後、実際にやっちゃうのかも知れません


本気で殺すつもりなら包丁でもよさそうですが、ナイフという単語の持つ暴力性に、関水がこれからすることを暗示させたのではと考えられます


これが第二の説の全容です

 

 

 

いかがでしたか?


関水の事情は意図的に説明されていないので妄想が暴走しますね。考察というより二次創作です


個人的には関水の見た目を回収したがん患者説を推したいですが、言うほど10億円きっかり必要か?と聞かれると、うーん……何か別の事情があるのかも知れません


なんであれ、謎多き関水が本作の読後感に一役買っているのは間違いないでしょう